ご縁カウンター

2005年01月22日

山○獣医科病院 最終章

タケは約3日入院していた。
実はもっとゆっくり入院しているはずだったけれど、手術後の経過が良好で早まったのであるが、本当のところ先生に思うところがあり、少し入院許可を出すことを躊躇していたようである。
それはタケが尿を出すコントロールがまだ出来なかったという事である。
つまり、垂れ流し。こまめにお尻を拭いてやる事も大切であったが、部屋の中におしっこを撒き散らす事になるからだ。
だけれども、母上はタケの居ない生活に寂しさを感じてならなかった。
昼間家にいるのは母上とタケである。その時間帯にタケが居るのと居ないとじゃ全然違うと言っていた。
母上としては、細かな世話が増えたとしても、タケが退院できる事を強く望んだのだ。

その日は日曜日。
家ちゃんが自分から車を出すと言い出した。この頃の家ちゃんは愛車を一番の宝物にしていたので、汚れる事を嫌い常に気を配っていた。
愛車が一番。二番目はタケなのである。
私達はそんな家ちゃんに『天変地異の前ぶれか』と正直思ってしまった。しかも、病院が始まったと同時に迎えに出るほど機敏な動きなのだ。なんでも母上任せで、自分は自分の好きな事しかやならい人だった家ちゃん。今思えば、タケが家ちゃんを少しずつ変えてくれていたのである。

姉が仕事に出た後、両親がタケを連れて帰ってくるのを待った。
私がなぜ行かなかったかと言うと、正確には行けなかったと言えばいいのだろうか、毎度ここでお話するとおり、朝がめっぽう苦手と言う事でお察しして頂けるだろう。
あえて言うならば『寝坊した』と言うことである。
寝坊したことで、家ちゃんに後でヤンヤン叱られた事を付け加え話を進めよう。

獣医さんで借りたゲージにタケはエリザベスカラー姿で入れられ帰ってきた。
うちの匂いでやっと帰って来れ安心したのか、ゲージを出てウロチョロしている内にソファに体を預けると、うとうととしている。
事前に母上がソファにタオルを敷いていたので、タケがおしっこを垂らしても問題はない。
タケからおしっこの鼻を突く臭いが漂い、この臭いに慣れるまで暫くかかったけど、それと平行して手術の痕も治りつつあった。

タケの手術が大きな物だったのを傷痕が物語っている。
手術前はタケの丸金ポイントにオスの証があったのである。がしかし、手術後はその証や痕跡もまったく無い。お○ん○んまでも無くなった状態で、完全のニューハーフ。ニューハーフ界の言葉を借りるならば『工事済み』になっているのだ。
カルセールマキさんだったか、カルーセールマキさんと同じ事になる。
お○ん○んのあったところには、細いストローを1cmくらい切った物がお○ん○んの代わりに入れられている。尿道の出口を確りした粘膜に再生させる為だろうか。

そして退院から約二週間が経った頃、抜糸する事になった。抜糸すれば、邪魔なエリザベスカラーから解放される。
タケにとってこの日は待ちに待った日であろう。エリザベスカラーのお陰で、ご飯を食べるにしても、食べずらかっただろうし。その姿は気の毒になってしまう。餌の皿に顔を突っ込むたびに、エリザベスカラーが皿をかぶせてしまう。
分かりやすく説明すると、餌皿に電気のかさをかぶせた状態なのだ。
『かさが餌を食べている』そんな姿に可哀想に思ってしまった。

この日も日曜日。
母上は家ちゃんと共に山○獣医科病院へ向かった。
抜糸でスッキリしたタケは、自由に元気に復活した。エリザベスカラーからの解放はきっと体が軽かったに違いない。
良かった良かった……。

しかし、この手術はタケにとって練習段階でしか無かったのである。
おしっこは無事に出続けたけれど……。


たけちよ2




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2005年01月21日

山○獣医科病院 2

初めて見たエリザベスカラー姿のタケに複雑な気持ちを抱いていると、先生の助手をしている若い獣医さんが顔を出した。
正確には獣医のタマゴらしいのであるが、私がタケの飼い主だと分かると、彼は苦笑いを浮かべながら近づいてきた。
「タケちゃんの飼い主さんですよね」
「はい」
「タケちゃん怒ってばかりで怖かったんですよ」
「やっぱり、そうだったんですか?」
タケの気の強さは私も認める。

基本的にタケは男の人が嫌いで、男性新聞配達員やデリバリー男性配達員が来る度に「フーフー」と言ってはいかくをする。
タケが男嫌いになった原因は全て家ちゃんに責任がある。
人の事は言えないが、可愛いと思う気持ちが先走って、しつこくタケにちょっかいを出す事が当たり前になっていた。頭をグリグリなで回したり、肉球をブニブニ触りまくったり、お腹のツルツルとした柔らかい毛に顔をうずめたり。これは私かな……。兎に角、人間だったら変態行為であるだろう。
特に飲み会があった日は最悪。それを察知したタケは身を潜め押入れの奥から出てこなくなるのだ。それと言うのも、家ちゃんは酔うと酒の匂いをプンプンさせ、強引にタケを抱きしめるとホッペ辺りをグリグリ自分の頬で擦り付ける。ひげの濃い家ちゃんの頬は擦られるととんでもなく痛い。これは幼い頃の私が体験済みであるが、猫にしても人間にしても、酒の匂いとひげ攻撃には耐えられない事である。
そんなタケを気の毒そうに眺めてしまう私であるが、助けようとすると家ちゃんから反撃にあう事は目に見えて分かる。必殺家ちゃんキックが私の背中をいつでも狙っているのだ。なので私はタケを助ける事無く、静かに解放される事を神に祈るばかりであった。
そんな事があって『男=家ちゃんの酒癖の悪さ』が頭にあり、タケは男嫌いになったと言う事である。
だけれども、頭のいいタケは家ちゃんになついている素振りをみせる。これは家ちゃんになついているのではなく、家ちゃんの食べる酒のさかな目的であり、貰うまでは何をされても我慢するポリシーがタケにはあったようだ。
その証拠に貰ったら『はい、さよなら〜』と言いたげに、触られない場所へ移動して身を隠すとうのがいつも流れなのだから。
「手術台に乗せるまで大変でしたよ」
助手先生は苦笑いを緩めず、その表情からは手術の大変さが伺えた。
「あははは……すみません」
そんな話をしていると、ある意味大変な手術をした先生が現れた。
「タケちゃん大変だったよ。フーフー言ってて、触らせてくれなかったんだから」
「あははは……」
『笑い事ではないですよ』と二人は言いたげに私を見るが、こっちとしては可笑しくてたまらなかったのである。『だいの男を困らせた一匹の猫』と題して小説を書きたくなる程である。
笑っている私を置いて、先生は思い出したように言った。
「今朝、お母さんが来てたよ」
「あ、そうですか」
どうやら心配で母上は同じマンションの友人と散歩がてたここへ来たようである。
「その時手術の説明したんだけど……尿の入り口と尿道を直結したんだ。石になる前に出るようにね。タケちゃん結構我慢強かったよ」
と手術の話をしながらタケに目を向けると、先生の怖そうな顔から柔らかい笑顔がこぼれていた。
人は見かけによらないって事をその表情で一つ勉強になった。
この先生は心から動物が好きで、特に重病な動物に対して強面を覆す優しい表情を浮かべるのである。
極端な話、年老いたヤクザ屋さんが孫を見る時の目……に似た感じであろうか。
この先生『実はそんなに年をとっていない』とその笑みから感じるものがあった。
年齢不詳に見えるので気にはしていなかったのだが、本当はまだ30代後半といったところでは無かろうか。

タケの手術が成功したこともあって、安心した私は余計な事を考えるようになっていた。きっとタケは私の事を人でなしと思ったに違いない。
恐らく、見ず知らずの男と共謀して、無理に注射をさせられたと誤解しているだろう……。
その目を見たら、何となく伝わるような気がした。


山○獣医科病院 最終章

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2005年01月20日

山○獣医科病院 1

たけちよ


真田さんのご好意で山○獣医科病院へ到着した。

車からタケを抱っこしている母上から順に車をおり、待合室へ足早に向かった。
診察室で待っていた先生はタケが暴れないように、バスタオル洗濯用ネットを用意してその中にタケを入れるように言った。
母上はタケをネットにいれると、直ぐに先生はチャックを閉めた。
だるそうにしているタケは暴れることもなく、ただ不安そうな目で私達をみている。
そんな目を見ていると、胸の奥がしめ付けられる思いで辛くなる。
先生は入院手続きの用紙を母上に手渡すと記入するように言った。

その間真田さんも思うところがあったようで、切なそうにタケの様子を見ていた。
私はタケに近寄ると「元気になって帰ってきてね」と言った。
この時の思いはただ淋しいの一言で終わってしまう。
「今夜7時に手術します。一時間ぐらいで終わるので心配でしょから電話くれてもいいですよ」
先生はそう言うと、大きなゲージを用意してネットに入ったタケを中にいれた。
「お願いします」
母上はタケとの一時の別れにしょげた顔で言う。
タケにしてみたら、なぜ自分が置いていかれるのか分かっていない。私達の雰囲気をタケなりに読み取っていたのか、鳴く事もせず、ジッと見ているだけだった。

後ろ髪を引かれる思いで私達は重い足取りで獣医を後にした。
マンションに着くと、真田さんにお礼を言って頭を下げた。
真田さんは「なんだか、淋しいね。でも大丈夫だよ」と励ましてくれ、気を使ってくれたのを作り笑顔で私達は答えた。

暫くして家ちゃんが帰宅した。
いつもなら、マンションのエレベーター前で母上とタケが迎えに出ているのであるが、今日はタケが居ないので淋しそうにしている。
事情を知ってから、声に強さは感じられず家ちゃんもシュンとしていたのだ。

「獣医さんに電話してみな」
と食事が終わった時に母上は言った。
食事中気になってしょうがない私を気遣ってではなく、自分が心配なのを人のせいにして掛けさせるつもりである。
『心配なら自分で掛ければいいのに』と思いながら山○獣医科病院へ電話をかけた。

電話の向こうでは先生の少しホッとした声色が伺えた。
「手術は無事に終わりましたよ。今は麻酔で眠ってますから、明日の朝にでも見にきてあげて下さいね」
「はい、有難う御座います」
私は嬉しさに声を張り上げた。その声を聞いてか、家ちゃんと母上の表情も明るくなっていた。
11時ごろになり、姉がやっと帰ってきた。途中同僚と飲んで帰ってきたようで、この時はほろ酔い加減であった。
タケの話をすると一瞬淋しそうにしていたが、おしっこが出なかったタケを見ていたので、手術成功と聞いてホッとしたようである。
「タケ、もう苦しまなくて済んだんだね」
「そうなんだよ。本当によかった」

翌日になって私は学校があったので、朝タケに会う事は出来なかったけれど、学校の帰り山○獣医科病院の近くを通るので少し寄ってから帰る事にした。

いつもは静かな院内。でもこの時間は診察を待つ人も複数いたり、院内で飼っている猫数匹が歩き回っていたりいつもと違う雰囲気だった。
先生に会うとタケは手術室に居ると言う。言われるがままに手術室へ足を向けるとそこには手術を終えた犬や猫数匹がゲージに入れられ眠っていた。
その中にタケの入ったゲージがある。
タケはエリザベスカラーという電気のかさのような物を首からつけていた。
小さい方の穴から頭を覗かせたなんともなさけない姿に笑ってしまいそうであるが、そのエリザベスカラーは点滴している腕をなめないようにしているのだ。
点滴をしている腕は毛を刈られ、地肌を見せた状態である。
手術後なので、おしっこは垂れ流し。この時は手術した部分が見れなかったけれど、それでも痛々しく思えてしょうがなかった。

タケちゃん、とっても可哀想なんだけど、笑ってしまうのはなぜなのかしら?
エリザベスカラーのせいなのかも知れないね。
ごめんよ……。


山○獣医科病院 2

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2005年01月19日

悲鳴は危険信号

尿道結石と診断されてから用心深くタケの様子を見ることにした。
病院から帰ってもおしっこの量は多少増えたくらいで、苦しさからは解放されていないようだ。
グッタリとしたままのタケに家族全員が心配して暗い雰囲気になってしまう。
いてもたっても居られず、初診から2日経って、もう一度診察してもらう事にしたのである。

山○獣医科病院に着くとれいの院長先生が顔を出した。
「やっぱり駄目だった?」
「はい、元気が戻らなくて」
先生は渋い表情を浮かべ、タケを診察台に乗せるように言った。
リトマス紙を使って病気の度合いを尿で調べるようである。リトマス紙をタケのお○ん○んに付けると色が変わるのを待つ。何色に変わったかは記憶が古いので忘れてしまったが、青だったか赤だったかに変わったのだ。
その色を見て先生の表情は更に渋みを増していた。
「とりあえず、薬を飲ませ続けてみて。酷くなると吐いたり悲鳴をあげるから、その時は直ぐに連れてきてね」
「悲鳴ですか?」
それを意味するものがいまいち理解が出来なかった。
「おしっこが出なくて苦しくなると『ギャー!』っていうから、そう言ったら直ぐに連絡ちょうだい」
「はい」
なんだか恐ろしい事になったとタケを抱っこしながら更に不安になった。

自宅へ着くと、母上に先生から言われた事を伝えた。
母上はタケの頭をなでながら、弱々しく甘えるタケに胸を痛めているようである。
暫くして夕方になり、それまでタケの行動を目で追っていた私であったが、先生が言う悲鳴はまだあげていない。
「大丈夫かな?」
夕食の支度をする母上は私を元気付けようと、
「大丈夫よ」
とは言うがそれは気休めにしかならない。
そんな時タケがベランダにあるトイレへヨロヨロと入っていったと思ったら、急に吐き出し、悲鳴をあげたのである。
「ギャ!」
「お母さん、タケが!」
母上が直ぐに獣医へ電話をすると、私はタケをタオルでくるみ、直ぐに家から出られるようにした。
そこへ「ピーンポーン」
『こんな忙しい時に誰よ』と思いながら、タケを抱いたまま玄関へ出ると同じマンションの真田(仮名)さんである。
「どうしたの?」
と驚いた顔で真田さんは言うが、こっちの方が聞きたいくらいだ。
「タケが病気で今獣医さんに連れて行こうとしていたのです」
「あら大変」
そんな話をしていると、母上は電話を切って玄関に現れ言った。
「あら、こんにちは」
いえいえ、挨拶している場合じゃないですから。
私は苛立ちをおさえられずにいた。タケを早く病院へ連れて行かなくちゃならないんだから。
「猫ちゃん病気だって?」
真田さんも心配してくれている様であるが、私としては早く動き出したかった。
「そうなよ」
そう言ってから、母上は私に先生から言われたことを話した。
「手術する事になったわ。入院するように勧められたから」
「しゅ、手術?!」
なおさら急がなくちゃならないじゃないか。
私は更にヒートアップして頭から煙が出そうな状態である。『早くしないといけない』そんな焦りで泣きたくなった。
そんな私に気が付いたのか、真田さんは私の頭を冷やしてくれる事を言ってくれたのである。
「車で乗せてってあげる」
地獄に仏とはこう言う事か……。その一言で私の頭は徐々にクールダウンしていった。
さっきまで真田さんの存在がうっとうしく感じてしまった自分に反省しながら、すがる目で母上に訴えた。
うんと言って欲しい。真田さんにお願いして欲しいという気持ちでいるのである。
私の訴えに答えたというより、もともと母上の性格はチャッカリしたところがあって、人の好意にはどこまでも甘えるところがある。
私の心配をよそに母上はすまなそうな顔で言った。
「あら、お願いしていいのかな?」
「いいの、いいの。大変な時だからね」
真田さんの親切心にこんなにも感謝した事はなかっただろう。
こうして母上も一緒に病院へ行く事になり、山○獣医科病院へ行く事になったのだ。

尿道結石の症状は、尿の量が少量になり嘔吐が起きる。尿が出なくなると『ギャー!』と悲鳴をあげる。原因は肥満や塩分の取りすぎのようである。
タケの場合、嘔吐は少なかったけれど、尿の量がたれる程度になってしまった。
可哀想なことをしてしまったものである……。


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2005年01月18日

石持ち

タケちゃん


中学2年の三学期、父・家ちゃんが一大決心をした。
それは夢のマイホーム!
マンションだけど住むには快適。
転校する私にとっては複雑だったが、自分の部屋が持てることに喜びを感じていた。
一方タケの方は、新しい環境になじめず最初は自分の匂いをつけながら自分の場所を探し、気が付けば自分の場所を当たり前のように見つけていた。
家族の転機が落ち着き、当たり前のように平安な日々を過ごして来た私達家族。
家庭も円満になり、こんな幸せがいつまでも続くと思っていた。

引越ししてから一年があっという間に過ぎた頃、高校へ進学し小説を書く事に目覚めた15歳の春。
最愛の竹千代(たけちよ)にある異変が起きたのだ。
「タケ朝から元気がないのよ……」
母上の言葉にタケの様子を伺った。確かにグッタリとだるそうに横たわっている。
「どうしたんだろうね」
「そう言えば、今日も昨日もおしっこしてないのよね」
「それって重大な事じゃない?」
そんな話をしていると、重そうな体をゆっくり起こし、タケはトイレへ向かった。
私はタケを見守るようにトイレまでついてゆくと、一生懸命おしっこを出そうとしているが直ぐに諦めてトイレから砂を撒き散らし出て行った。
「出ないみたい」
この時点で獣医へ連れてゆけばよかったのだが、飼い主初心者は暫く様子を見る事にしてその時はやり過ごした。
夕方になりチョロチョロとおしっこをするタケ。出た事で安心してしまったのだが、そのチョロチョロは更に続いき、尚且つタケの元気は戻らない。

次の日の夕方。学校から帰ってきた私はタケの変わらぬ様子に『これは問題だ』とやっと気がついて、慌てるように近所の獣医へ連れてゆく事にしたのである。
寄生虫の時と同じ自転車のカゴにタオルを敷き、タケの体をタオルで包んでカゴにいれた。不安そうな顔で私を見ているので「大丈夫だよ」とタケに言い聞かせる。
薄っすらと暗くなる道を自転車のペダルを強くこいで獣医へと急いだ。

この獣医は近所の話で親切・丁寧と評判であった。あの頃はごく一部の人達にしか知られていなかったのだが、現在、他の市からも患者が訪れるほどの賑わいがある。
心のある診察と腕のいい院長の努力のたま物。
そんな未来がある獣医さんだとはこの時予想もしていなかった。

病院に到着すると直ぐに待合室へタケを抱っこして向かったのだが、私以外の飼い主さんらしき姿は見えなかった。
「すみません」
と私の弱々しい声に診察室の奥からクマのような男の人が現れた。
ムッとした表情に怖そうな雰囲気。喧嘩したらグー一発で負けてしまいそうな強面の人である。
「電話くれた人?」
ぶっきら棒にその人は言う。後で判った話だが、この人が院長先生なのである。
「はっはい」
来る前に電話していたので話は早いがこの人の迫力に私は圧倒されている。
「じゃぁここに猫ちゃん置いて」
この顔から猫ちゃんなんて言葉が出ると不似合いで笑ってしまいそうになるが、タケの事を考えると笑っている場合ではない。
先生に言われるがまま、診察台の上にタケを立たせた。
タケは人見知りが激しく、見知らぬ男の人には「フーフー」といっていかくをする。
そんな気の強さに驚いた先生は見た目に似合わない少し怯えた表情で言った。
「こわいな……」
タケのいかくに耐えながら先生は手馴れた手つきで診察をテキパキとこなし、そして病名が明らかになった。
「これはね、尿道結石だよ」
「尿道結石?」
「人間にもかかる病気で太りすぎとかが原因だったりするんだけど、この子平均より太り過ぎだね」
『あんたに言われたくない』と言いたくなるが、それよりビックリなのはタケが肥満猫だと言う事に今まで不思議に思わなかったことだ。
この時点で飼い主失格である。
確かに大きいなぁとは思っていたが、肥満なんて言葉が出るとは予想もしなかった。
「太り過ぎだからなぁ、人間で言うと『小錦』なみかな」
「こっこにしき……なみ?」
がくぜんとする私に先生は軽く言うのである。
固まった私をよそに先生は注射器を用意すると言った。
「注射して石を溶かそうね」
タケを「おさえて」という先生の声に、私は言われたとおりにすると、先生はタケの腰辺りに注射をブジュッと一刺して診察を終えた。
タケの方はおとなしく注射をされ、悲鳴をあげる事無くやられるがままであるが、内心穏やかではなかっただろう。その証拠に肉球からは汗がにじんでいたのだから。
先生は薬を用意するとカルテに必要な名前と住所、タケの名前を書くように別紙を渡してきた。
別紙に記入を済ませると、先生はその紙をみるなりこう言った。
「この子竹千代っていうの?」
「はい、タケちゃんです」
「たけちゃんっていうの?」
何か動揺している先生に何が言いたいのか分からず首をかしげていた。

診察は無事に終わり自宅へ到着すると母上は待ち構えていた。
病院での事を説明すると、ホッと一息ついてソファに腰を下ろす。タケは初めての恐ろしい体験に疲れたのか、指定の場所で注射された辺りをなめながら眠ろうとしていた。
私はそんなタケを見ながらハッとある事に気がついたのだ。
先生がなぜあの時動揺したのかを……。

その病院名は、山○獣医科病院。
私の旧姓は山○であり、タケは山○竹千代になる。先生の名前は武○であり、タケちゃんと呼ばれているのだろう。なので、他人とは思えなかったようだ。
それを考えると可笑しくて、一人ぷぷぷと笑ってしまったほどである。


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2005年01月17日

居なくなった竹千代 最終章

朝の事である。遠くで母上の慌しい声が聞えた。朝がめっぽう弱い私は、脳の回転が遅く通常回転するまで時間が掛かる。

母上は家の裏にある会社にパート勤めをしていた。出勤時間はとっくに過ぎているのになぜか引き返してきたのだ。
姉は出勤前のお化粧時間で、コーヒーを飲みながらテレビを見ていたようであるが、母上の慌しい声に玄関まで飛び出していた。

「タケがいたよ!」
母上が騒いでいたわけはそれである。
その声に私の脳が急激に回転を増し、体は脳の指令に答えて飛び起きると『直ぐに玄関へ向え』の命令によって行動を開始した。
母上が玄関に姿を見せると、母上の腕には疲れきったタケの姿があった。
「タケ……」
これは夢なのか、それとも幻なのか。
姉はホッとしてタケの小さな頭をなで、私はホッとしすぎて体の力が抜けてしまいそうだった。
タケの体は薄汚れ、白い部分がグレーと変わっている。なき声は夜半なき続けていたせいか声がかれていた。
普段でも『ミャー』となけないタケは『ビャー』となくが、この時は『ビー』だった。
母上からタケを受け取ると、やっと安心したタケは落ち着きを取り戻していた。
「良かった見つかって」
姉の目には薄っすらと涙が浮かんでいる。
「ホントよかった」
私まで目が潤んでしまった。

母上が言うにはタケは会社の作業場にいたという。
その会社は消火栓の標識を作っている会社で、母上の仕事は古くなった標識のペンキをさびと一緒にはがし、赤いペンキを塗りなおすという仕事なのである。
その為作業場の臭いは独特で、ペンキとシンナーの臭いや鉄のさびた臭いが混ざったその場所特有の臭いなのである。
タケはその作業場のシャッターに閉じ込められた形で夜を過ごしたと母上は言う。

タケからは作業場の臭いがしていた。
「ペンキ臭い」
私と姉は笑った。
「体、洗わなくちゃね」

その後母上は家ちゃんに電話をして見つかった報告をしてから職場に戻り、姉は出勤時間がきたので会社に出かけた。
残された私にはタケをシャンプーする仕事が待っていた。
台所の湯沸かし器でお湯を出すと、タケの汚れた体を洗ってやる。
寒くて、淋しくて、心細い一夜を過ごしたタケは作業場のシャッターから叫んでいたに違いない。きっと外から私達のタケを呼ぶ声や鈴の音を聞いて、更に叫んでいただろう。
近くに居て気付かなかった自分を心から悔やんだ。『なぜ気付いてあげられなかったんだろう』と悔しくて涙が出てしまう。
タケの体を擦りながら、涙を浮かべ鼻声で言った。
「よく頑張ったね……」
タケはあの状況で恐怖を感じていただろうから。
タケのグレーになった白い部分が綺麗な白に戻って、体から作業場の臭いが消えた。タオルで体を拭くと、直ぐにコタツに入れて寝かせてあげた。
少し様子をみていると疲れがどっと出たのか、タケは暫く眠り続けていたのだ。

この事件があってから、家族の絆やタケの存在を考えさせられる事になった。
我が家にとって大切な猫。それが竹千代なのである。

「まったくマヌケなんだから」
とその時の思い出を語るたびに私と姉は毒を吐く。本人へ向けて言った事があるが、人間の言葉を理解していたのか、嫌な表情を浮かべているように見えた。
これもいい思い出なのかな……。


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2005年01月16日

居なくなった竹千代 2

夕食が終わり「お風呂に入れ」と言われたので入りながら、家の外へ耳をすましタケの声を探していた。

昔住んでいた家はトタン板がはられた薄い壁の家だった。特にお風呂はもともと家には無かったので、家ちゃんと大工をしている叔父さん達とで作った最高傑作なのだが、冬になると身が縮まるほど寒い風呂場だった。
最近ではあまり見ることのない、ステンレスの浴槽。実はその前は木の風呂おけだったけれど、長く使うに連れ腐りはじめステンレスの浴槽に変えたのだ。

薄いトタンの壁から微かに猫の声が聞える。
「タケ?」
幻聴にもにた声であるけれど、これは別の猫のものだと分かり直ぐにガッカリした。
お風呂から上がると家ちゃんは懐中電灯を持って外へ出て行った。
直ぐにタケを探しに行ったのだと思って、私も家ちゃんの後を追いもう一度探す事にしたのだ。
更に寒さが深まる夜。吐く息は白く、お風呂で温まった体は直ぐに冷えてしまった。
「タケー タケー」
名前を呼んだ後に耳をすましタケの声を聞こうとする。家ちゃんが鳴らす鈴の音が空しくも響き渡っているが、タケの姿、声はまったく現れない。
『タケ、本当にどこ行っちゃったのよ。帰ってきてよ。どこにいるの……』
悲しくて、淋しくて胸が痛くて。タケの存在がこれほど大きい物だとは思いもしなかった。完全にタケは私達の家族で小さな体であるけれど、タケがくれたものはあまりにも大き過ぎていた。
今こうして胸を痛めているのがその証拠である。
結局、タケは見つからなかった。
この時私の中で絶対の自信がある事を薄々気が付いていた。その絶対の自信とは『タケは家の側にいる』と言う事。
だがタケの姿が見えていない今、自分を励ます一つの方法でしかなかったのである。

今夜は諦めることにした。
それは家ちゃんの行動でそうするしか無かった。しょんぼりしているのは私だけではなく、家ちゃんにとっても大切な家族で、一番ショックなのは家ちゃんなのかもしれない。
家ちゃんが諦めて家に戻る背中を見つめ、諦めるしかないと説得されたのだった。

家に戻ると、姉は平静をよそおって心配している素振りを見せなかった。どちらかと言うと、自分の気持ちをおさえて私を励ましてくれたのだ。
二段ベッドの上で横になる姉が下の私に声を掛けてきた。
「タケ、どこ行っちゃったんだろうね」
「うん……」
「兄弟のもとに帰っちゃったのかな?」
「うん……」
「もしそれがタケにとっての幸せだったら、仕方が無いよね」
「うん……」
姉の話を聞きながら、涙がポロポロこぼれていた。鼻をすする声で私が泣いている事に気が付いた姉は困った声色で言った。
「泣くなよ」
「だって」
「うちが忘れられなければ、必ず帰ってくるからさ。その日を待とうよ」
「……待てないよ」
「そうだけど、待たなくちゃ」
「……」
こうしてタケのいない夜をむかえ、私達は淋しさと心配を抱えながら眠る事にした。
今頃タケは寒さに震えているのだろうと思うと、更に胸は張り裂けそうになっていたのだ。


居なくなった竹千代 最終章

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2005年01月15日

居なくなった竹千代 1

竹千代(たけちよ)が家族の一員になって気が付けばクリスマスが訪れていた。
タケの為にクリスマスプレゼントとして新しい首輪を買ってあげることにしたのである。
タケの毛色は黒がメインなので、赤い首輪がよく似合うのだ。今までつけていた首輪はノーマルな赤い首輪だったので、少し豪華に見えるプラスチックの宝石もどきがついた赤い首輪をペットショップで買って来た。
家に帰ると早速タケに宝石もどきのついた赤い首輪をつけてあげた。

「かわいい……」

take


新しい首輪をつけてもらったタケは嬉しそうにしている。そんなふうに私達は思っていたので、ニヤニヤした顔で私と母上は顔がほころんでいた。

暫くしてタケは新しい首輪と共にいつもの散歩へ出かけて行った。
家の周りは住宅地になっているのでそれほど車の往来が激しいところではなかった。
タケが行動する範囲は家の周りの安全な場所で、その範囲を超えると商店街と言う事もありバス通りだったり、車や自転車の往来が激しくなる。元野生の勘というやつで、危険区域を把握していたのかも知れない。
うちには散歩に出かけたタケを呼ぶ方法があった。それは鈴を鳴らすとダッシュで家に帰ってくる習性で、鈴を鳴らす時は『ご飯だよ』の合図に使っていたのだ。
鈴の音を聞いたタケは、ご飯の知らせだと思い急いで帰ってくる。家族にとっては安心であり、タケとの通信方法の一つでもあった。

日が暮れるにつれ、夕方6時ごろになるとタケは散歩から帰ってくる時間であるが帰ってこない。いつもなら玄関の戸を少しあけているので、少しの隙間からヒョッコリ顔を出し、玄関に置いてある餌を美味しそうに食べている時間なのだ。それにもし遅くなったとしても鈴を鳴らせば急いで帰ってくる。
ところが今日に限って帰って来ない。
焦った私は最後の手段を使うことにした。その手段とは、猫缶を缶きりでカンカンと叩くと鈴で帰って来ない時でも必ず帰ってくるのである。
私は最後の手段を試みたがそれでも帰って来なかった。
「家出したのかな?」
そんな不安が私と母上の脳裏をかすめた。
気が付けば時間は7時を回っている。時間が経つにつれ不安も増していった。
テレビを見ていてもタケが帰ってくるのを気にして、心配でテレビどころではない。
夕食の支度をしている母上も、手を休め外の方を気にしながら支度を進めている。
私はいてもたってもいられなくて、家の周りを鈴を手にしながら見回ることにした。

寒くて暗くなった空の下、タケは今頃寒くて震えているかも知れない。もしかしたら、人の手によって連れ去られたかも知れない。
だんだんと気持ちは悪い方へ転がってゆく。
不安をあおりながら、タケがいそうな場所を覗き込んでは弱い声をあげて名前を呼んだ。
「タケ……タケ……」
名を呼びながら、力のない鈴の音が暗くなった辺りに響いている。
「チャラン……チャラン……」
後ろの茂みからカサッと音がする度に振り返り、タケではない猫だと分かるとガックリと肩を落とす。心配と不安で涙が出てきてしまう。
「タケ……どこ行っちゃったのよ……」

そこへタイヤのきしむ音が聞えたと思ったら、父・家ちゃんが会社から帰ってきたのである。駐車場に車を止めて出てきた家ちゃんに私は弱い声で言った。
「お父さん、タケがいなくなっちゃった」
更に泣きそうな顔で訴えると、家ちゃんの顔が曇りだし突然の事に固まっていた。
「タケいないのか?」
「うん」
家に入るととりあえずご飯を食べようということになったのだが、この日の食卓はタケがいない事で暗い雰囲気になっている。
テレビの音が意味も無く流れているけれど、私達の頭の中はタケのことでいっぱいだった。
そこへ姉が仕事から帰宅した。姉は玄関の戸を閉めようとしていたので、母上が閉めない様に声を掛けると、不思議そうな顔を覗かせた。
「タケいないの?」
何も知らない姉に事情を説明すると、これまた落ち込みモードになるメンバーが増えただけでなんの解決にもならない。

楽しいはずのクリスマスは、タケがいない事で暗いクリスマスとなってしまった。
タケはいったいどこへ行ってしまったのだろうか……。
不安と淋しさに胸が痛くてしかたがなかった。


居なくなった竹千代 2

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2005年01月14日

飼い主初心者で君は幸せかい?

竹千代(たけちよ)を育てるにつれ、彼を愛称で呼ぶ事が多くなっていた。
「タケちゃん、こっちおいでよ」
「タケチ駄目じゃない」
「こら! タケ!」
どんな愛称を言われてもタケはちゃんと反応を示す。
猫は犬と違ってあまり飼い主にはなつかないと言うが、それは間違った話で、私になつかなくても母上にはベッタリな猫だったのだ。

家の中でタケはヤンチャだった。
ゴキブリやクモを発見すると追い掛け回し母上のかわりに退治してくれる。それは害虫の駆除と言うよりかは遊びの一つだったのだろう。
バタバタと暴れているかと思えば、急に静かになり、遊び疲れたのか膝の上で眠ってしまう。そんないろいろな場面で愛らしい姿を私達に見せてくれ楽しませてくれた。
時に予想もしない行動をするのである。
朝食を食べている私。朝はめっぽう苦手な方で、ボーッとしながらテレビを見ながらご飯を食べていると、私の目を盗んで食卓の上にある味噌汁に顔を突っ込んではペチャペチャとなめていた。
その音に我に返ると驚いたものである。

タケがうちの子になってから、毎日が楽しくて家族内のギクシャクしていた関係がタケのおかげで良くなっていた。
父・家ちゃんの気性が妙に落ち着き、勝手に出かけていた友人との旅行についてはあいも変わらずであるが、タケが遊びそうなキーホルダーのお土産を買って来たり、渋々O.Kしたわりにはタケの存在を認めている。その理由は、家ちゃんが仕事から帰ると母上と共に家の前で待っていてくれるからだ。
親不孝な娘達は出迎える事も無く自分勝手にしているのだが、タケは休む事無く出迎えていた。これが家ちゃんにとってどれだけ嬉しかったのか、タケに掛ける声色でその嬉しさが伝わる。タケにしてみたら酒のさかなが目当てだったれど、それでも家ちゃんにとって自分になついてくれる猫に愛しさがあったようだ。

タケの食欲は凄いものがあった。面白いほどなんでもよく食べた。
らーめん・ショートケーキ・おはぎ・パン・ポテトチップスなどどれも塩分糖分の高いものばかり。
飼い主初心者がやってしまいがちだが、タケがおいしそうに食べているので私達はホイホイあげてた。

ある日のこと。
急に元気が無くなったタケに母上が一番最初に気が付いた。
お腹だけがポッコリ出てこたつの中で元気のないタケを母上は心配していたのである。
「朝から元気が無いのよ……」
こたつの中を覗くと母上の言うとおりタケはグッタリとしている。
母上と相談して病院に連れてゆくことを決め、電話帳で家から一番近い獣医を探した。
今と違ってあの頃は獣医をしているところが少なく、電話帳に載せているところは悲しい事に家の近所には無かった。
一番近いところで隣駅に獣医がある。その獣医に電話を掛け診察してくれるかをたずねた。不運にも休診日であったが、獣医さんの好意で診てくれると言ってくれた。
獣医さんに感謝しつつも行った事のない場所へ一人で行くのは不安だった。そんな不安から身近な友人に電話をして、付き合ってもらう事をお願いする事にした。友人に事情を説明するとその友人は快く引き受けてくれたのだ。
自転車のカゴにタオルを敷いてタケをタオルでくるみカゴの中に入れた。タケは不安そうな目で「どこへ連れて行くんだよ〜」と言いたげに見上げると、そうとう具合が悪いのか力なく顔を伏せた。
そんなタケに「病院へいって診てもらおうね」と声を掛けるが、本当のところ心配でどうしようも無く『獣医に連れてゆけば大丈夫』と自分に言い聞かせ気を確りさせた。そしてペダルをこぐと友人と待ち合わせをした場所まで急いだのである。

待ち合わせの場所には既に友人の姿があった。
「大丈夫?」
彼女も一緒になって心配してくれている。そんな友人の言葉に私の気持ちは少し楽になっていた。感謝感謝である。

隣駅の獣医に着くと獣医先生は待っていてくれたのか直ぐに診察をしてくれた。
ポッコリと出たタケのお腹に触れると、先生は納得した顔で言った。
「虫がいるね」
「虫?」
友人と私は顔を見合わせて言った。

虫とはよく言う寄生虫。サナダ虫という人もいるが、白くて長くてゴムひものような気持ち悪い虫である。戦前・戦後に人間にも寄生していた虫で、腸のなかに住みつき、栄養分を吸い取って大きくなる虫で長いもので1メートルを超えるのもいるらしい。症状としては下痢を引き起こしたりするらしいが、以前あるテレビで寄生虫ダイエットというのを見た事がある。わざと自分の腸に寄生虫を住まわせ、余分な栄養分を食わせるらしく、それがダイエットに効果があると言う恐ろしい話だ。

先生はすぐに虫下しの薬をくれ「これを牛乳で混ぜて飲ませてね」と言った。
悪い病気ではない事を知り、私と友人はホッと胸をなでおろすと、会計を済ませ帰宅する事にした。途中友人にお礼を言ったあと別れ、自宅につくと母上に先生から聞いた事を報告した。

腸に寄生虫がいる野良猫は多いという。野良猫は自然と虫下しの方法を身につけている。どうやるのかは不明であるけれど、野良猫には野良猫の生き方があり生活方法もあるのだろうと思う。怪我をしても薬草になる草を知っていたりするのかも知れない。
野良猫の知恵というやつなのだろう。


早速先生に言われたとおり器に牛乳を入れると薬を混ぜてタケの前に差し出した。
だがタケはそれを見向きもせず、なかなか牛乳を飲んでくれない。こんな時にスポイトがあればと思っていると、ストローがある事に気が付いた。そこで閃いたのはストローでスポイトの原理を利用した方法である。
ストローの先を牛乳につけ、ストローの反対側を親指で押さえると牛乳につけた方の先に少しだけだが牛乳が吸い取られる。
そのままストローの先をタケの口元に当てて、押さえていた親指を放すと吸い取られた牛乳がタケの口にしみ込むということだ。
嫌がるタケを愛のムチとばかりに叱りながら、その方法で薬を飲ませ続けた。苦労したかいがあって、なんとか飲ませ終えることが出来たのである。

次に日の朝。
母上の話だとう○こと一緒に長いゴムひもの様な虫が出たそうだ。それが寄生虫の姿である。母上はそれをティッシュでつまみ引っ張り出したと言う。
今思えば、見なくて良かった……。
タケは獣医先生のおかげで元気になってくれた。

だが、その頃の私達はタケに人間と同じ物を食べさせることをやめずにいた。
それがとんでもない大きな間違いに気がついたのは翌年の事である。

これはこの先獣医にかかる予兆なのかも知れない――。


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2005年01月13日

黒と白のにくいヤツ 2

家ちゃんは8月8日辺りから家族を置いて、母上に相談もなく、会社の友人と旅行へ出かけていた。この日は旅行から帰ってくる日で、家ちゃんが帰って来たのは夕方近くなった頃である。
私達には運が良く、旅行が楽しかったのか上機嫌で帰って来たのだった。
姉との作戦は家ちゃんが帰って来る前に相談済みだったので、そのチャンスを狙っていた。
子供の考える事には高が知れている。それでも「うん」と言わせる自信が私達にはあったのだ。

夕食前に家ちゃんがお疲れの晩酌を始め、私は流行る気持ちをおさえつつその時を待った。
ある程度酒が回った時がチャンスだ。
家ちゃんは酒が入ってからダンダンと舌が回り始めていた。しらふの時は口数が少ない方であるが、酒が入るとクドイと言いたくなるほど舌の回りが良くなる。
この時は疲れているせいか、酒の回りが早く、チャンス到来は苛立つほど待たなくて済んだのだ。

『今がチャンス!』

私はほろ酔い加減の家ちゃんにこういった。
「ねぇお父さん……この子可愛いでしょ?」
隠していた子猫をストレートに目の前に出した。今思えば変化球ではなく、ど真ん中ストレートなのが恐ろしく思う。
「なっなんだ!……この猫は?!」
「裏にいっぱい居たうちの一匹……」
私は姉に言われたとおり潤んだ瞳を家ちゃんに向けた。
家ちゃんは私の瞳に一瞬ひるんだが、少し動揺しながら
「飼いたいのか……?」と軽く問いかけ私は深く頷いた。
そして子猫に問いかけるように目を向けると、
「この子が家に来たいって……」
な、訳が無い。無言の猫は悪魔姉妹の陰謀で猫語を都合よく訳されているにすぎないのだ。子猫にしてみたら『お母さんのところに戻りたい』と思っているに違いない。
家ちゃんは暫く考えた後、への字に曲がっていた口を渋々開いて言った。
「ちゃんと世話をするんだろうな……」
「うん」
ここでやっと姉の登場。
「世話するよ」
姉はいつでも美味しいところだけを持ってゆくズルイところがあった。家ちゃんの恐ろしさを私よりも良く知っているからこそ。怒られ役はいつでも私なのである。
家ちゃんは驚いた顔で姉の方へ目を向けると
「お前も飼いたいのか……」
家ちゃんと私のやり取りで怒った様子が無いのを確認すると、
「うん」
と大きく頷いた。
悪魔姉妹の期待している満面の笑みに困ったのか今度は母上に話しをふる。
「お母さんは……」
「飼いたいって言うから、しょうがないじゃない?」
皆の意見を聞いた家ちゃんは納得したと言うより、3対1と言う立場に納得するしかなかったようで渋々言った。
「じゃあ良いよ」

頑固でへそ曲がりの家ちゃんがあっさりとO.Kをするという事は快挙である。
家ちゃんは娘に対して甘い父親ではないのだが、人数負けという事でO.Kを出した形となった。
私達はと言うと、大喜びではしゃぎ回った。
今まで動物を飼う事は無かった。飼ったと言えばインコくらいだったので、中学生なるまでこんな嬉しい事は無かったのである。


一夜明けて、子猫に名前をつける事になった。
姉と母上そして私は子猫を囲み、名前についてああだのこうだの言いながら、いろいろな名前をあげた。昨日はとりあえずイチゴの箱に入れていたので
イチゴと命名したのだが、実はメスなのか?オスなのか?素人の私達には分からないでいた。
子猫をひっくり返し、柔らかい毛の感触に触れ愛しさをふくらませていると、ふとあるポイントに気がついた。
「あれ?やっぱりこれって……そうだよね?」
私の声に姉と母上は指差した方を覗き込むと、「そうかも」と二人して納得するものがあった。
「この子オスかも」
私は子猫の下の方にある柿の種に毛得たがはえたようなモノをながめて言った。
柿の種と言っても新潟名物柿の種ではなく、木になる柿の種である。
私達は丸金ポイントにそれが有るのを確認した。
「オスみたいだね……」
と姉はそれを突っついて言う。
猫にしたらたまらないだろうが、悪魔姉妹はそんな事はお構いなしなのである。恐るべし悪魔姉妹、姉さま。
「やっぱそうだよ……これ」
と悪魔姉妹、妹も突っついている。
バカ娘を横目に母上は話を仕切りなおして言った。
「イチゴじゃ女の子みたいだよね……」
そうなのである。丸金ポイントを突っついている場合ではないのだ。
名前を決めなくちゃ。

私達は考えた。猫にとっては名前なんてどうでも良いのかもしれないが、ペットを飼い始める基本はその子に名前をつけてやる事である。
「菊千代は?」
なぜか和風の名が私の脳裏をかすめていた。
更に「しし丸」「菊丸」「竹丸」など。しかし、二人の答えは「NO!」である。
気が付けば1時間が経過していた。
「竹千代(たけちよ)は?」
と疲れた頭が最後に搾り出した名前に二人はう〜んと考え込むと、長い便秘から解放された顔で頷いた。
「それでいいよ!」
私達は今までこんなに考えたことが無いくらい考えたに違いない。
あまり考えすぎて、結果、疲れてしまったのであるが……。
こうして彼は「竹千代」と命名された。
その竹千代は(平成14年)現在15歳。人間年齢90歳。
猫とは1年で20歳と数え2歳から25歳となり1年に人間の5年分の年をとる。
竹千代は90歳と言う長寿であるが、上には上が居るもので、この前TVで26歳の猫を見た。メスの猫で人間年齢145歳とは!!驚くべき事実である。

take




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posted by まわた at 10:39| Comment(2) | TrackBack(0) | エッセイ☆竹千代 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年01月12日

黒と白のにくいヤツ

初めてネコを飼ったのは、私がまだ中学2年生の夏の事である。あれは忘れもしない、8月13日。
家では父・家ちゃんがかなり厳しかった為、犬・ネコを飼うのを反対さえれていたが、
その頃になって家ちゃんの性格は丸くなっていた。
家ちゃんについてはまた日を改めてご紹介しようと思うけれど、ここで軽く父について説明しておこう。

人の迷惑かえりみず、世界は自分中心に回っているようなところがある。
東海道線品川駅付近での一幕、恥かしさがそこにあった。
有楽町へ宝くじを買いに行く時の事。通勤ラッシュが終わりつつある時間帯に家ちゃんから妙な音が奏でられた。私達にとっては聞き覚えのあるあの音。『ぶっ』である。
ドレミで言うならば『レ』辺りのチョッと低めな感じでしょうか、そんな音がガタンゴトンと音を立てる車内に響いたのである。周囲の人たちは、ビックリした様子でこちらをチラチラみている。
そうなのです。これは家ちゃんのレのおなら音。ある意味騒音でしょうが、家ちゃんは恥かしいという気持ちをあっちへやって『どこでオナラをしようが出るものはしかたが無い』と屁理屈を並べているのだからこれは死ぬまで治らないだろう。

小さい時叱られると新聞紙を丸めそれで叩かれる。
九州男児であり母上をよく困らせていた。なにせ、仕事から帰って食事の用意が
出来ていないともの凄く不機嫌になるのだ。
あの頃は自分で動く事を知らないように母上にあれこれ注文をつけていた。
「お茶!」「新聞!!」「テレビ!!」「風呂!!」「着替え!!」
昭和のホームドラマを見ているような世界であるが、亭主関白というヤツである。
現在では嘘のように『自分でやれる事は自分でやる』というふうに変わり、母上としてはやっと楽になれたのだけれど、未だにその名残は消えていない。

そんな父を持つ私であるが、中学二年生の8月13日は忘れられない日である。

8月13日の昼。姉と私は母上からある情報を入手した。
『裏の駐車場に子猫が生まれたみたい。いっぱい居るよ!』
今では猫の集団なんてのは珍しいけれど、あの頃は普通に野良猫の集団がいたのである。ボス猫らしきシマの綺麗なたくましい猫がオス猫。小さく黒毛と白の靴下を履いたような可愛らしいメス猫の間に6匹の子猫が生まれたのである。
姉と私は母上の言葉に胸を弾ませて、裏の駐車場へ子猫達を見に行った。
この時私達の心の中で暗黙の了解が出来ていた。その暗黙の了解とは、気に入った猫がいたら家で飼うという希望である。
私達は駐車場へ出ると子猫ちゃん達を探した。だがその姿は見えない。二人して耳を澄ますと、どこかで『ミャーミャー』と子猫の声が聞えるのでその声の方へ近づいた。
「いた」
見つけたのは私。姉を手招きで呼ぶと、姉妹そろって子猫達の愛らしい姿を温かくなる気持ちで見ていた。
猫達は会社と駐車場のフェンスの間、人一人が入れるスペースに母猫のお乳を吸いながらコロコロとしている。ある猫は兄弟猫とじゃれあったり、寝ている子もいたり、それはなんとも言えないほのぼのとした光景であった。
私達の存在に気が付いた母猫は目をギョッとさせると、子猫達を置いて建物の奥へ逃げてしまったが、何も知らない子猫達は警戒もせずコロコロと転がっている。母猫を追い出した形になって今思えば心苦しいが、あの頃の姉と私はそんな事よりも子猫達の愛らしさに心を奪われていたのだ。
フェンスを乗り上げるように私達は覗き込んだ。
「お姉ちゃん、この子達可愛いね」
「うん、可愛いね……」
なんとも言えない私達の顔は、似た顔で微笑んでいた。
子猫達からすれば『悪魔姉妹の不気味な笑み』にしか思えないだろう。そして母猫にとっては恐ろしい事件だったに違いない。
私はサラリとした気持ちで姉に言った。
「ねぇ……どの子にする?」
親の了解も得ず飼う気満々で姉にたずねると、姉も私と同じ気持ちでいたのか、
「そうだね……」
とイケニエを選ぶかように悪魔姉妹は相談をしている。
ニヤニヤと不気味に笑う悪魔姉妹の姉はターゲットをしぼって、
「コイツにしよう……コイツは愛嬌がある顔をしているからね」
イヒヒと笑うように姉はある子猫を指差した。
母猫と同じ毛色の子猫。黒と白のにくいヤツ。

実行犯は私。その黒白の猫を捕まえようとフェンスから身を乗り越えて、その子を捕まえた。その子猫は運動神経が鈍いのか、すんなり捕まえる事が出来たのである。

こうして悪魔姉妹の生け捕り作戦は成功した。二人して上機嫌で家に戻ると、母上にその子を見せて飼いたいことをアピールした。
お決まりの台詞で……。

「二人で世話はするから」

小学生じゃないんだから的なお願いに「面白い顔をしてるね」と言いつつ、母上も結構飼う気があったように思える。
面白い顔と言うのは、顔に黒いマスクをかぶり口元やあごの部分が白く、鼻と口にかけて黒いヒゲをはやした様になっている。両手(前足)と両足(後足)は白く、手袋と靴下をはいた様になっている。
母上はその猫を愛しく見つめるが、その顔はほんの数分しか見せず、現実に目を向けると言った。

「お父さんが良いって言ったらね……」

そうだった忘れていたのだ……。一番厄介な人物。その人物にちゃんとした理由が無いとなかなか「うん」とは言ってくれない。
姉と私は考えた。考えたところでろくな答えしか出ないだろうけど、今は考えるしかないのである。


黒と白のにくいヤツ 2

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posted by まわた at 10:24| Comment(0) | TrackBack(0) | エッセイ☆竹千代 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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