実はもっとゆっくり入院しているはずだったけれど、手術後の経過が良好で早まったのであるが、本当のところ先生に思うところがあり、少し入院許可を出すことを躊躇していたようである。
それはタケが尿を出すコントロールがまだ出来なかったという事である。
つまり、垂れ流し。こまめにお尻を拭いてやる事も大切であったが、部屋の中におしっこを撒き散らす事になるからだ。
だけれども、母上はタケの居ない生活に寂しさを感じてならなかった。
昼間家にいるのは母上とタケである。その時間帯にタケが居るのと居ないとじゃ全然違うと言っていた。
母上としては、細かな世話が増えたとしても、タケが退院できる事を強く望んだのだ。
その日は日曜日。
家ちゃんが自分から車を出すと言い出した。この頃の家ちゃんは愛車を一番の宝物にしていたので、汚れる事を嫌い常に気を配っていた。
愛車が一番。二番目はタケなのである。
私達はそんな家ちゃんに『天変地異の前ぶれか』と正直思ってしまった。しかも、病院が始まったと同時に迎えに出るほど機敏な動きなのだ。なんでも母上任せで、自分は自分の好きな事しかやならい人だった家ちゃん。今思えば、タケが家ちゃんを少しずつ変えてくれていたのである。
姉が仕事に出た後、両親がタケを連れて帰ってくるのを待った。
私がなぜ行かなかったかと言うと、正確には行けなかったと言えばいいのだろうか、毎度ここでお話するとおり、朝がめっぽう苦手と言う事でお察しして頂けるだろう。
あえて言うならば『寝坊した』と言うことである。
寝坊したことで、家ちゃんに後でヤンヤン叱られた事を付け加え話を進めよう。
獣医さんで借りたゲージにタケはエリザベスカラー姿で入れられ帰ってきた。
うちの匂いでやっと帰って来れ安心したのか、ゲージを出てウロチョロしている内にソファに体を預けると、うとうととしている。
事前に母上がソファにタオルを敷いていたので、タケがおしっこを垂らしても問題はない。
タケからおしっこの鼻を突く臭いが漂い、この臭いに慣れるまで暫くかかったけど、それと平行して手術の痕も治りつつあった。
タケの手術が大きな物だったのを傷痕が物語っている。
手術前はタケの丸金ポイントにオスの証があったのである。がしかし、手術後はその証や痕跡もまったく無い。お○ん○んまでも無くなった状態で、完全のニューハーフ。ニューハーフ界の言葉を借りるならば『工事済み』になっているのだ。
カルセールマキさんだったか、カルーセールマキさんと同じ事になる。
お○ん○んのあったところには、細いストローを1cmくらい切った物がお○ん○んの代わりに入れられている。尿道の出口を確りした粘膜に再生させる為だろうか。
そして退院から約二週間が経った頃、抜糸する事になった。抜糸すれば、邪魔なエリザベスカラーから解放される。
タケにとってこの日は待ちに待った日であろう。エリザベスカラーのお陰で、ご飯を食べるにしても、食べずらかっただろうし。その姿は気の毒になってしまう。餌の皿に顔を突っ込むたびに、エリザベスカラーが皿をかぶせてしまう。
分かりやすく説明すると、餌皿に電気のかさをかぶせた状態なのだ。
『かさが餌を食べている』そんな姿に可哀想に思ってしまった。
この日も日曜日。
母上は家ちゃんと共に山○獣医科病院へ向かった。
抜糸でスッキリしたタケは、自由に元気に復活した。エリザベスカラーからの解放はきっと体が軽かったに違いない。
良かった良かった……。
しかし、この手術はタケにとって練習段階でしか無かったのである。
おしっこは無事に出続けたけれど……。

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