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2005年01月21日

山○獣医科病院 2

初めて見たエリザベスカラー姿のタケに複雑な気持ちを抱いていると、先生の助手をしている若い獣医さんが顔を出した。
正確には獣医のタマゴらしいのであるが、私がタケの飼い主だと分かると、彼は苦笑いを浮かべながら近づいてきた。
「タケちゃんの飼い主さんですよね」
「はい」
「タケちゃん怒ってばかりで怖かったんですよ」
「やっぱり、そうだったんですか?」
タケの気の強さは私も認める。

基本的にタケは男の人が嫌いで、男性新聞配達員やデリバリー男性配達員が来る度に「フーフー」と言ってはいかくをする。
タケが男嫌いになった原因は全て家ちゃんに責任がある。
人の事は言えないが、可愛いと思う気持ちが先走って、しつこくタケにちょっかいを出す事が当たり前になっていた。頭をグリグリなで回したり、肉球をブニブニ触りまくったり、お腹のツルツルとした柔らかい毛に顔をうずめたり。これは私かな……。兎に角、人間だったら変態行為であるだろう。
特に飲み会があった日は最悪。それを察知したタケは身を潜め押入れの奥から出てこなくなるのだ。それと言うのも、家ちゃんは酔うと酒の匂いをプンプンさせ、強引にタケを抱きしめるとホッペ辺りをグリグリ自分の頬で擦り付ける。ひげの濃い家ちゃんの頬は擦られるととんでもなく痛い。これは幼い頃の私が体験済みであるが、猫にしても人間にしても、酒の匂いとひげ攻撃には耐えられない事である。
そんなタケを気の毒そうに眺めてしまう私であるが、助けようとすると家ちゃんから反撃にあう事は目に見えて分かる。必殺家ちゃんキックが私の背中をいつでも狙っているのだ。なので私はタケを助ける事無く、静かに解放される事を神に祈るばかりであった。
そんな事があって『男=家ちゃんの酒癖の悪さ』が頭にあり、タケは男嫌いになったと言う事である。
だけれども、頭のいいタケは家ちゃんになついている素振りをみせる。これは家ちゃんになついているのではなく、家ちゃんの食べる酒のさかな目的であり、貰うまでは何をされても我慢するポリシーがタケにはあったようだ。
その証拠に貰ったら『はい、さよなら〜』と言いたげに、触られない場所へ移動して身を隠すとうのがいつも流れなのだから。
「手術台に乗せるまで大変でしたよ」
助手先生は苦笑いを緩めず、その表情からは手術の大変さが伺えた。
「あははは……すみません」
そんな話をしていると、ある意味大変な手術をした先生が現れた。
「タケちゃん大変だったよ。フーフー言ってて、触らせてくれなかったんだから」
「あははは……」
『笑い事ではないですよ』と二人は言いたげに私を見るが、こっちとしては可笑しくてたまらなかったのである。『だいの男を困らせた一匹の猫』と題して小説を書きたくなる程である。
笑っている私を置いて、先生は思い出したように言った。
「今朝、お母さんが来てたよ」
「あ、そうですか」
どうやら心配で母上は同じマンションの友人と散歩がてたここへ来たようである。
「その時手術の説明したんだけど……尿の入り口と尿道を直結したんだ。石になる前に出るようにね。タケちゃん結構我慢強かったよ」
と手術の話をしながらタケに目を向けると、先生の怖そうな顔から柔らかい笑顔がこぼれていた。
人は見かけによらないって事をその表情で一つ勉強になった。
この先生は心から動物が好きで、特に重病な動物に対して強面を覆す優しい表情を浮かべるのである。
極端な話、年老いたヤクザ屋さんが孫を見る時の目……に似た感じであろうか。
この先生『実はそんなに年をとっていない』とその笑みから感じるものがあった。
年齢不詳に見えるので気にはしていなかったのだが、本当はまだ30代後半といったところでは無かろうか。

タケの手術が成功したこともあって、安心した私は余計な事を考えるようになっていた。きっとタケは私の事を人でなしと思ったに違いない。
恐らく、見ず知らずの男と共謀して、無理に注射をさせられたと誤解しているだろう……。
その目を見たら、何となく伝わるような気がした。


山○獣医科病院 最終章

目次
posted by まわた at 13:01| Comment(0) | TrackBack(0) | エッセイ☆竹千代 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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