ご縁カウンター

2005年01月16日

居なくなった竹千代 2

夕食が終わり「お風呂に入れ」と言われたので入りながら、家の外へ耳をすましタケの声を探していた。

昔住んでいた家はトタン板がはられた薄い壁の家だった。特にお風呂はもともと家には無かったので、家ちゃんと大工をしている叔父さん達とで作った最高傑作なのだが、冬になると身が縮まるほど寒い風呂場だった。
最近ではあまり見ることのない、ステンレスの浴槽。実はその前は木の風呂おけだったけれど、長く使うに連れ腐りはじめステンレスの浴槽に変えたのだ。

薄いトタンの壁から微かに猫の声が聞える。
「タケ?」
幻聴にもにた声であるけれど、これは別の猫のものだと分かり直ぐにガッカリした。
お風呂から上がると家ちゃんは懐中電灯を持って外へ出て行った。
直ぐにタケを探しに行ったのだと思って、私も家ちゃんの後を追いもう一度探す事にしたのだ。
更に寒さが深まる夜。吐く息は白く、お風呂で温まった体は直ぐに冷えてしまった。
「タケー タケー」
名前を呼んだ後に耳をすましタケの声を聞こうとする。家ちゃんが鳴らす鈴の音が空しくも響き渡っているが、タケの姿、声はまったく現れない。
『タケ、本当にどこ行っちゃったのよ。帰ってきてよ。どこにいるの……』
悲しくて、淋しくて胸が痛くて。タケの存在がこれほど大きい物だとは思いもしなかった。完全にタケは私達の家族で小さな体であるけれど、タケがくれたものはあまりにも大き過ぎていた。
今こうして胸を痛めているのがその証拠である。
結局、タケは見つからなかった。
この時私の中で絶対の自信がある事を薄々気が付いていた。その絶対の自信とは『タケは家の側にいる』と言う事。
だがタケの姿が見えていない今、自分を励ます一つの方法でしかなかったのである。

今夜は諦めることにした。
それは家ちゃんの行動でそうするしか無かった。しょんぼりしているのは私だけではなく、家ちゃんにとっても大切な家族で、一番ショックなのは家ちゃんなのかもしれない。
家ちゃんが諦めて家に戻る背中を見つめ、諦めるしかないと説得されたのだった。

家に戻ると、姉は平静をよそおって心配している素振りを見せなかった。どちらかと言うと、自分の気持ちをおさえて私を励ましてくれたのだ。
二段ベッドの上で横になる姉が下の私に声を掛けてきた。
「タケ、どこ行っちゃったんだろうね」
「うん……」
「兄弟のもとに帰っちゃったのかな?」
「うん……」
「もしそれがタケにとっての幸せだったら、仕方が無いよね」
「うん……」
姉の話を聞きながら、涙がポロポロこぼれていた。鼻をすする声で私が泣いている事に気が付いた姉は困った声色で言った。
「泣くなよ」
「だって」
「うちが忘れられなければ、必ず帰ってくるからさ。その日を待とうよ」
「……待てないよ」
「そうだけど、待たなくちゃ」
「……」
こうしてタケのいない夜をむかえ、私達は淋しさと心配を抱えながら眠る事にした。
今頃タケは寒さに震えているのだろうと思うと、更に胸は張り裂けそうになっていたのだ。


居なくなった竹千代 最終章

目次
posted by まわた at 12:25| Comment(0) | TrackBack(0) | エッセイ☆竹千代 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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